こばとの英語ノート

 言葉の妖精こばとの変てこな日常生活を英語を織り交ぜながら綴っています。こばと英語辞典も製作中。いつかは英語の総合サイトだって威張れるようになりたいな。何はともあれ、『こばとの英語ノート』をよろしくね!

赤桶暦ちゃんは大学を去ります

≪ 番外編⑧「とても心配したそうです」

後日談①「大学を去ります」

「こばとちゃん、頼まれていた資料、ここに置いとくよ」
 沙希ちゃんが書庫から運んできた書物を机に積上げます。
「ありがとねー。じゃあ、こっちに積んであるやつ、返して来てねー」
 こばとが要らなくなった資料を指差すと、沙希ちゃんはちょっと怖い顔して「よいしょ」と書物を持ち上げて、また地下へ行きました。

(おっと。薩田千明(さった ちあき)さんからメールが来てますねー。仕事してるふりして、じっくり読んじゃおうっと)

 今日、暦(こよみ)ちゃんが退学の手続きをするために大学に来ました。
 私は彼女のことが心配で付き添っていました。
 当然のことながら周囲の視線は冷たく、口に出して嫌味を言う教授もいましたが、暦ちゃんはひと言も言い返さずに、1人1人に頭を下げて謝罪していました。でも一番辛そうな顔をしたのは研究室に挨拶に行ったときです。
「お世話になりました」
 暦ちゃんは小角教授に深々と頭を下げした。
「これからどうするのかね?」
 小角教授は暦ちゃんを少しも責めずに、ただ穏やかな口調でそう尋ねました。
「数馬と一緒に東京を離れます」
 そう答えた暦ちゃんの頬にはひと筋の涙がありました。

 学生課で手続きをすませたあと、ちょうど昼だったので、大学の外へ出てカフェで軽い食事をとりながら、彼女から話を聞きました。こばとさんに伝えることも了解をとってあるので、なるべく省かずに書いておきます。

「数馬(かずま)と最初に会話を交わしたのは、彼が大学をやめる少し前の昨年 11 月でした。私は隣の阿縣研で内田早苗ちゃんに、卒業研究がうまくいっていないとというようなことを話していました。彼女が『どんな研究してるの?』と尋ねるので、なるべくわかりやすく説明していたのですが、互いに専門が異なるので、あまりよく理解してもらえませんでした。それはいいんです。相談というより、ただ愚痴を言いたかっただけなので」

「でも、ちょうど傍で私たちの会話を聞いていた数馬が、驚くほど的確に研究の進め方の問題点を指摘したんです。でも彼はワークステーションを操作しながら、顔を1度もこちらに向けませんでした。噂通りの変わった人だなと思いながらも、私はお礼を言って、その場を立ち去りました」

「それからしばらくしてまた研究で行き詰ると、少しためらいながらもまた数馬に相談に行ったんです。彼は私の差し出した紙を受け取ると、ほとんど表情を変えずに、素早くボールペンで数式の誤りを正してくれました。単純な計算ミスだったことがわかって、かなり恥ずかしかったです」

「その頃から、私は数馬を男性として意識するようになっていたと思います。実際、3度目の相談に行くときは、また別の意味で緊張するようになりましたから。それでも思いきって『よければ食事をしながら相談にのってもらいたい』と言ってみたんです。そのとき初めて、数馬の戸惑ったような、人間らしい表情を見たような気がします」

「その夜、大学から少し離れた所にあるお店に行きました。これが最初のデートだったのかな ...... あまり、そういうロマンチックな雰囲気ではなかったけど。しかもその時、数馬は『大学をやめることになるから、会えるのは今日で最後』と言ったので、私は仰天して事情を訊きました」

「数馬は阿縣教授から『おまえのようなやつは、どこにも推薦しないし、推薦文のいらない大学院に合格したとしても、私がここを卒業させない』と言ったそうです。数馬はここでは自分のやりたい研究はできないし、たぶんそれはどこの大学へ行っても同じだろうと考えていたようです。数馬は『だからやめる』と言いました」

「『4年生でやめたら学歴は高卒だよ?』と私は数馬を必死に説得しましたが、数馬自身は驚くほど肩書というものに無頓着なんです。彼は『僕が開発中のシステムが完成すれば億単位のお金を支払ってでも欲しいというところはあるはずだ』と言ったのです」

「顔色変えずにそんなことを言う数馬を前して、驚き呆れもしましたが、同時に彼に対する興味もまたどんどん強くなっていきました。彼はこれから何をするのだろう、彼の傍にいたらどんな人生が送れるのだろうって。そして食事が終わる頃になって、ほとんど無意識に言葉が口からこぼれました。『今晩、私の家に泊まっていく?』と小さな声でささやいたのです」

 ひゃああ。このブログは良い子も読んでいるかもしれないから、ちょっとぎりぎりねー。
「何やってんの?」
 背後から声をかけられて「ひゃああ!」と叫んでしまいましたよ。
「さ、沙希ちゃん、なんですかー!? 今ちょうどすっごくいいところなんですよー! 邪魔しないでくださいなー! 沙希ちゃんはあっちで仕事していてくださいなー!」
 こばとは拳をぶんぶん振って抗議します。
「いいところ!? 仕事のメールじゃないの!?」
「あわわわ」
「人が一生懸命仕事してるときに、こばとちゃんは何やってんの!?」
「さあて息抜きも終わったしー、そろそろ仕事を再開しようかなー」
 ...... というわけで、続きはまたあとでねー。

 ≫ 後日談②「計画には資金が必要です」
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 [ 2017/07/05 16:24 ]  こばとの大作戦! | TB(-) | コメント(0)
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