こばとの英語ノート

 言葉の妖精こばとの変てこな日常生活を英語を織り交ぜながら綴っています。こばと英語辞典も製作中。いつかは英語の総合サイトだって威張れるようになりたいな。何はともあれ、『こばとの英語ノート』をよろしくね!

英語で「コンピューターウイルスに感染しましたよ!」

 土曜日の午後のことです。屋根裏の PC でブログ記事を書いていると、傍に置いてある iPhone に着信がありました。
「あー、古垣内(ふるがいち)さんねー、お久しぶりねー」
 電話の主は例の古文書騒動でお世話になった K 大学の古垣内道昭教授でした。
「こばとさん、大変なことになったんだ」
 でも古垣内教授は楽しくおしゃべりしようという雰囲気ではありませんでした。
「ど、どうしましたー?」
 とっても嫌な予感がしましたよ。
「研究室のコンピューターがウイルスに感染した」
「ウ、ウイルス?」
「あるメールを開くと、保存していたデータが全て凍結されてしまったんだ。画面には『ロックを解除してほしければ ... 』」
「それって、あれねー! 今世界中を騒がしているランサムウェアってやつねー! 解除してほしければ身代金を払えってやつでしょー! 卑怯ねー! 絶対に払っちゃだめですよー!」
とまくしたてたのですが、
「いや、身代金ではないんだ。『解除してほしければ例の古文書をこの住所に送れ』というメッセージが表示されている」
「 ...... 」

英語で「コンピューターウイルスに感染しましたよ!」

 こばとはしばらく呆気にとられてしまいました。そして我に返ってから、
「きききい! そんなものを要求してくるやつは、この世に1人しかいませんよー! 今度はまたとんでもない攻撃をしかけてきましたねー!」
「犯人がわかっていても、こちらとしてはどうしようもない。大切な研究データが入っている 6 台すべてがやられた。向こうの居場所も掴めない。今、助手や院生たちが研究室に集まって対策を話し合っているんだが、正直言って途方にくれている。いやもちろん、相手の要求のままに古文書を送るなんてことは絶対にしない。その点に関しては心配しないでくれ。本当なら、わざわざこばとさんを不安にさせるような連絡はしたくなかったんだが、そうも言っていられない。というのも、もしかすると、そちらの会社の PC も被害を受けるんじゃないかと思ってね」
「!!! それはそうですねー! あの五十木(いかるぎ)のことだから、『あとりえこばと』にサイバー攻撃してくる可能性は十分にありますねー!」
「とにかく、不審なメールは開かないでくれ。私のところは『たった 3 日で書き上がる最速論文執筆法!』というメールを開いて感染した」
「だ、誰ですかー!? そんな怪しげなメールを開いたお馬鹿さんはー!?」
「博士課程の茶之原君だ。彼は今論文に追われていたもんだから、つい藁にもすがる気持ちで ... いや、そんなことはどうでもいいんだ。とにかく、こばとさんも注意してくれ」
「わかりましたよー。今日はまだメールをチェックしていないのが幸いしましたよー。でもとにかく心配だから、今からそちらに伺いますよー」
「いや、そこまでしてもらうわけには ...... 」
「五十木のやつが逮捕されるまでは、こばとも安心して暮らしていられませんからねー」
「本当に申し訳ない」
「力を合わせて今度こそ五十木をしょっぴいてやりましょー!」
 こばとは通話を切ってから、PC のメールリストを眺めて怪しいものがないか探しました。
「特に怪しいものはなさそうですけどねー。んん? 『あなたにだけの耳寄り情報! 妖精さんがたった 3 日で 100g も減量できるクッキー』てのが届いてますよー。実は最近ちょっと体重が気になっていたところなんですよねー。クッキー食べながらダイエットできるなんて夢のようねー♪ ぽちっとな」

 My computer got infected with a virus.
 こばとの PC はウイルスに感染しました。


「えーん。えーん。こばとのパソコンがウイルスに感染しちゃったよー」
 こばとは連絡を受けて家に来てくれた小夜子さんに泣きつきました。
「どこまで馬鹿なの!?」
 小夜子さんは呆れて叫びます。
「えーん。えーん。『解除してほしければ古垣内に泣きついて古文書を指定した住所に送らせろ』と書いてありますよー。くやしいですよー」
「 ...... そんなトラップに引っかかるのは、こばとちゃんぐらいだよ」
 路子さんも呆れてそんなことを言います。
「とにかく車に乗って! K 大学に行くよ!」
 小夜子さんは泣いているこばとの襟首を指先でつまんで車に放り込みます。

 え~ん。ひっく。ひっく。第2話に続きますよ~。ひっく。
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 [ 2017/06/24 14:32 ]  こばとの大作戦! | TB(-) | コメント(0)

英語で「怖い顔で睨まれましたよ」

≪ 第1話「コンピューターウイルスに感染しましたよー!」

英語で「怖い顔で睨まれましたよ」

「あれほど忠告したのに ...... 」
 K 大学に着いて、こばとの PC がランサムウェアに感染した経緯を話すと、さすがの古垣内教授も呆れかえっていました。
「そんな見えすいた手に引っかかるかよ、普通?」
 院生さんの1人が馬鹿にしたように言いますが、
「 ...... 茶之原君は人のこと言えないだろう」
 古垣内教授が窘めます。
「なにい!? 茶之原ですとー!? 『 3 日で書き上がる最速論文執筆法』などという、くだらないメールに騙された院生さんですねー!? そんなやつに、こばとの失敗をとやかく言われたくありませんよー!」
「それとこれとは全然ちがうよ」
 茶之原君はぬけぬけとそんなことを言いました。
「きききい! 何がどう違うんですかー!?」
「今はくだらない喧嘩なんてしている場合じゃないでしょ!」
 小夜子さんがまたこばとの襟首を指先でつまんで
「データ復旧の見通しは立たないのですか?」
と訊きます。
「うちの大学の情報科学科の院生たちに来てもらっているんだが、ほとんど見込みはないらしい」
 古垣内教授は途方に暮れた表情で首を振ります。

「明らかな強迫だし、犯人もわかっているんだから、警察に相談すればすぐに捕まりそうな気もするけど」
 路子さんがそう提案します。
「大学側が表沙汰になるのを嫌って被害届を出すのをひどくいやがっているんだ。それにそもそも五十木教授の居場所が掴めないんだ」
「え? 自宅にいないということですか?」
 小夜子さんが尋ねます。
「ああ。五十木夫人によると、もう半年も自宅に戻っていないらしい。ほとんど失踪状態なんだ。五十木夫人はとても人柄の良い人だから、そのやつれた姿は見ていられないほどだったよ。2人の娘さんもいるというのに、いったい五十木君は何を考えているんだか」
 古垣内教授は大きな溜息を吐きました。
「でも確かに、こんな事するなら拠点を知られるわけにはいかないしね」
 小夜子さんが腕を組んで考え込みます。
「例の古文書ひったくり事件のときには、すでに失踪していたわけか」
 路子さんが言葉を継ぎます。
「こんな攻撃は単独では実行できませんよね。五十木が情報技術に詳しいとは思えないしねー」
 こばとがそう言うと、
「そうよね。誰か他に高度な技術をもつ仲間がいるはずよ」
 院生の薩田千明(さった ちあき)という女性が答えます。
「古文書の送り先に指定した『西池袋〇×丁目』がアジトってことは、さすがにありえないのかな?」
 路子さんが自信なさそうに訊きました。
「さっき、別府込(べっぷこみ)助教授が急いでそこへ行ってみたんだが、人が住んでいるような気配はなかったらしい。宅配ボックスが置いてあったから、古文書が送られたら、そこからすばやく回収してどこかに持ち去るつもりなんだろう」
 古垣内教授が少し疲れたような口調で答えました。

「それにしても学部が違うのに皆さんとても熱心ねー。偉い子たちねー」
 土曜日にも関わらず、総出で対策に当たってくれている情報科学科の助手や院生さんたちの作業する姿を眺めながらそう言うと、
「こちらとしては1人か2人の手を借りたいと申し出ただけなんだが、情報科学研究科は院生たちを総動員してくれているんだ。もちろん有り難いのだが、どうにもおかしな雰囲気で ...... 」
 古垣内教授は腑に落ちないといった様子で囁きます。
「んん? そう言われてみると、確かに熱心過ぎるような ...... 」
 そんなことを呟きながら、猛スピードでキーボードを叩き続ける院生さんたちを眺めていると、そのうちの1人がこちらを振り向いたので、なんとなく目が合ってしましました。

 He fixed me with an angry stare.
 怖い顔で睨まれてしまいましたよ。


「な、なんか睨まれましたよ? 『おいこら。なに見てんだよ』みたいな怖い雰囲気でしたよ?」
 小夜子さんの肩に座って首筋につかまります。
「忙しいから邪魔するなってことでしょ。そんなことより、これからどうするか考えないとね。このまま、こばとちゃんの PC のデータが復旧しないと困るでしょ?」
「ちょー困りますよー!」
「でも幸いなことに、こばとちゃんのほうは私用 PC のみの感染で済んだんでしょ。仕事用のほうに被害が出なくてよかったね」
 路子さんはそんなことを言います。
「ちっとも幸いじゃありませんよー! 私用 PC にだって、個人宛てのメールとか、ネットで集めた美味しいレストランベスト 1000 とか、こばとちゃん名言集とか、大事なものがたくさん入っているのねー!」
 こばとは拳をぶんぶん振って抗議しました。

 ≫ 第3話「常にバックアップを取っておきましょう」
 [ 2017/06/24 16:05 ]  こばとの大作戦! | TB(-) | コメント(0)

英語で「常にバックアップを取っておきましょう」

≪ 第2話「怖い顔で睨まれましたよ」

英語で「常にバックアップを取っておきましょう」

 それから1時間ほど研究室で「あーだこーだ」話し合っていましたが、良い解決策が見つからず煮詰まっていたところ
「もうどうしようもない! 古垣内教授! 古文書を送ってデータを復旧してしてもらいましょう!」
 茶之原(ちゃのはら)のやつがとんでもないことを言い出したのです。
「きききい! ふざけたこと言わないでくださいなー!」
 こばとは猛抗議します。
「仕方ないだろ! 僕の大切な研究データが入ってるんだよ! このまま博士号を取れなかったらあんたが責任とってくれんのかよ!?」
 茶之原は自分勝手なことを言います。
「自業自得でしょー! 茶之原君が変なメール開くからこんなことになってるんでしょー! これだけ皆に迷惑かけておいて、ちっとも反省してませんねー!」
「なんだとー!? おまえみたいなチビにこの苦労がわかるもんかー!」
「チビ!? 言ってはならないことを言いましたねー!?」
「チビだからチビと言ったんだ!」
「子供みたいな喧嘩している場合じゃないでしょう!」
 院生の薩田千明(さった ちあき)さんが仲裁に入りました。

「バックアップはとってなかったの?」
 小夜子さんが茶之原に訊きます。
「週明けにとろうと思ってたんだよ!」
 茶之原はむきになって応じます。
「だからいつも、こまめに研究データのバックアップはとっておいたほうがいいよって忠告してたのに」
 薩田さんが冷めたお茶に口をつけて言います。
「薩田さんのデータは無事だったようだね」
 古垣内教授が確かめるように尋ねると、
「はい。いつも複数の USB と DVD に交互に保存しているので」
「研究生活では、そういうリスク管理は大事なことだよ」
 物静かな別府込(べっぷこみ)助教授が言い添えます。
「ふん!」
 茶之原は口を尖らせて横を向きました。
「とにかく相手の要求を呑むことは絶対にしない。あの古文書はこばとさんから信頼されて託されたものなんだ。それを忘れちゃいけない」
 古垣内教授が茶之原を諭します。

 まあそんなわけで、今回の教訓じゃなくて英語の例文は

 You shold constantly make a backup copy.
 常にバックアップをとっておきましょー。


です。「備えあれば憂いなし」と言いますからねー。日頃からの心構えが大切ですねー ...... えーん。えーん。こばともちゃんとバックアップとっておけばよかったですよー。えーん。とにかく話の続きをどうぞー。

 話題はなんとなく小夜子さんのことに移ります。
「え? W 大学の院生さん? ご専門は?」
 薩田さんが尋ねました。
「国際政治学です」
「あはは。 K 大と W 大って、なんとなくライバル同士な雰囲気だから、こうやって一緒に和気藹々と話していると不思議な感じがする」
 薩田さんはくすくす笑います。
「私はあまりライバルとか思ったことないですけど」
 小夜子さんは少し首を傾げてお茶を口にします。
「ふーん。そちらの八武崎さんも W 大の人?」
「卒業生です。今は社会人」
 路子さんが答えます。
「あー、どうりで常識的な雰囲気があると思った。話し方とか立ち居振る舞いとか、しっかりしてるもんな」
 助手の名鷺(なわし)さんが口を出します。
「おいおい、そんな言い方すると、大学に残る人間がまともじゃないみたいに聞こえるよ」
 古垣内教授が苦笑いします。
「そういえば、小夜子さんがまだ学部生だった頃、五十木に『君は院に進むつもりだろう? 大学院顔をしている!』と言われてことがあったのねー!」
 こばとはふと思い出してそんなことを言いました。
「余計なこと言わなくていい」
 小夜子さんはこばとを睨みます。
「ははは。『大学院顔』かあ。そいつは傑作だ! あの五十木さんも、そういう直感は冴えていたんだなあ!」
 名鷺さんが大笑いしました。

 ≫ 第4話「重要なキーワードを手に入れましたよ!」
 [ 2017/06/24 19:16 ]  こばとの大作戦! | TB(-) | コメント(0)

英語で「重要なキーワードを手に入れましたよ!」

≪ 第3話「常にバックアップを取っておきましょう」

英語で「重要なキーワードを手に入れましたよ!」

 そうして何の対策も打てないまま日も暮れてしまいました。
 研究室には応援に来てくれている情報科学研究科の院生さんたちのキーボードを叩くかちゃかちゃという音が響いています。
 特にすることもないので、今日はそろそろ帰ろうかと思っていたとき、鋭利な雰囲気を纏った1人の男性が研究室にやってきて、古垣内教授への挨拶もそこそこに、
「まだ復旧できないのか」
と居丈高な口調で作業中の院生に話しかけます。
「誰ですかねー?」
 こばとが古垣内教授に尋ねます。
「応用情報科学研究室の阿縣(あがた)教授だ」
「ふーん」
「教授、このウイルス、やっぱり めもがみ の ...... 」
 院生さんが何かを言いかけると
「馬鹿! そんなことを口にするな!」
 阿縣教授は慌てた様子で制します。
「す、すみません」
 院生さんはまた作業を続けます。
「阿縣さん、彼らも休みなく作業を続けているようだし。だいぶ疲れているようだ。少し休憩させてやったら ...... 」
 古垣内教授がそう提案しましたが、
「うちの院生のことは構わんでもらいたい」
と突っぱねます。

「なんだか、やな感じねー」
 こばとが素直な感想を言うと阿縣教授は振り返って
「言葉の妖精が来てるのか!?」
と言って舌打ちしたので、
「来ちゃいけませんかねー?」
 こばともついむっときて言い返してしまいました。
「この大変な時に部外者にうろうろされると迷惑だ」
「部外者じゃないもん。古文書には大いに関係してるもん。ところで めもがみ て何ですかー? 新種のコンピュータウイルスの名前ですか-?」
「そ、そんなことは知らん!」
「だって、そこの院生さんが言ってたしー。妖精の鋭い聴覚は聞き逃しませんよー。ねえねえ、めもがみ てなんなのー? 教えてくださいなー」
「知らんもんは知らん! とっとと帰れ!」
 阿縣教授はそう言って追い払うような仕草をしますが、
「阿縣さん、ここは私の研究室だし、彼女は私の客人だ」
 古垣内教授が窘めると、苦虫を噛み潰したような表情で研究室を去って行きました。

 I got an important keyword!
 重要なキーワードを手に入れましたよ!


めもがみ というキーワードを手に入れましたよ! ちゃらら、らっちゃっちゃー♪ これでクリアーに一歩近づきましたよー!」
 こばとがはしゃいでそう言うと、
「 RPG じゃあるまいし」
 路子さんが呆れたように首を振ります。
「めもがみ ...... メモ紙ということかな?」
 薩田さんが自分の顎に人差し指を触れながら呟きます。
「古垣内さん、めもがみ という言葉に心当たりありますかね?」
「いや、まったくないなあ」
 古垣内教授は小さく首を振りました。

「とりあえず今日は遅いし、もう帰ろうか」
 小夜子さんが少し疲れたような口調でそう言います。
「ですねー。また明日来て対策を話し合いましょー」
 こばとたちは教授と院生さんたちに挨拶してから、古垣内教授の研究室を出ました。すると廊下の向こうで例の阿縣教授が助手のような人と小さな声で話し合っているのを発見しましたよ。ずいぶん距離が離れているので、人間には聞き取れないほどの声ですけど、こばとはしっかりとその会話を聞かせていただきましたよ。
「言葉の妖精がこの件に食いついてきている」
「切れ者ですか?」
「いや、あいつ自体は大したことない。どうせ馬鹿騒ぎすることぐらいしかできないだろうが、あいつの姉が乗り出してくると厄介だ」
「北大のかばね助教授ですか ...... 確かに面倒なことになりそうですね」
「十分に気をつけないとな」
 ...... きききい! 好き勝手なこと言わないでくださいなー!
 聞かなきゃ良かったですよー! いやんなっちゃうな、もう!

 ≫ 第5話「めもがみ?」
 [ 2017/06/24 21:45 ]  こばとの大作戦! | TB(-) | コメント(0)

英語で「めもがみは ...... のことでした」

≪ 第4話「重要なキーワードを手に入れましたよ!」

英語で「めもがみは ...... のことでした」

 今朝は 10 時に路子さんの運転する車に乗って、再び K 大学へ向かいます。
「みっちゃん、今日は運転までさせちゃってごめんね」
 小夜子さんが申し訳なさそうに言います。
「いいって、いいって。運転は嫌いじゃないし、W 大の卒業生が K 大に行く機会なんてあまりないことだしね。こういうのって結構刺激になるよ」
 路子さんは青信号を確認してアクセルを踏みながら答えます。
「ほんとにありがと! 今日は夕飯おごるから!」
「それに、そろそろ決着をつけないとね。五十木元教授はもう正気を失っているとしか思えない。自分を追放した大学、そのきっかけとなったさっちゃんへの逆恨み、そして学界復帰という達成不能な目標に対する異常な執着心。そういう負の感情だけで生きているような気がする」
 路子さんは、いつになく真剣な口調でそう言いました。
「私のせいなのかな。私がやり過ぎたのかな」
 小夜子さんも、いつになく弱気になって項垂れます。
「さっちゃんは何も間違ったことしてないよ。全部五十木さん本人が招いたことだしね。ただ、五十木さんの奥さんや娘さんたちは、本当に気の毒だと思う」
 路子さんは少し悲しそうな顔してハンドルを切りました。

 We found that Memogami is a last name.
 「めもがみ」は苗字のことでした。


 薩田千明(さった ちあき)さんが調べてくれたのです。学内の友人や所属しているロックバンドのメンバーなどに片っ端にメールを送ってみたところ「目面上君のこと?」という返信が届いたそうです。
「なるほど。目面上(めもがみ)ね。まさか人の名前とは思わなかったな」
 小夜子さんが応じます。
「珍しい苗字だもんね」
 路子さんが頷きます。
「ぜひ会ってみたいですねー。今、何年生ですかねー?」
 こばとがそう尋ねると、
「それがね、去年大学をやめちゃってるの。しかも4年生のとき」
 薩田さんが戸惑ったように答えます。
「4年生で!? 卒業を目前に退学したの!?」
 路子さんが驚いて訊き返します。
「まだ詳しい事はわからないんだけど、例の阿縣教授の応用情報科学研究室に居たらしいの。そこで何かトラブルがあったんじゃないかなあって思うんだけど。今日も復旧作業している阿縣教授の院生さんたちに詳しい事を訊こうとしても『知らない』の一点張りでね。それでもしつこく食い下がろうとすると『作業の邪魔だから』て追い出されちゃった。自分の研究室なのに」
 というわけで、大学の近くにあるカフェで(学内のカフェは日曜なのでお休みです)、こうしてこばとたちと話しているのです。
「これはきっと何かありますねー!」
「こばとちゃん、昨日の夕方、その院生さんは阿縣教授になんて言ってたのか憶えてる?」
 小夜子さんが尋ねます。
「ええとね、『このウイルス、やっぱり めもがみ の ... 』と言ってましたねー」
「目面上のウイルス?」
「目面上君の作ったウイルス、てことかな?」
 小夜子さんと路子さんが立て続けに薩田さんに問いかけます。
「さ、さあ、そこまではまだわからないけど」
 薩田さんが戸惑って首を傾げます。

 しばらくすると例の院生、茶之原がやって来ました。
「だめだ。研究室は情報科学の連中に乗っ取られてる。まあどのみち、研究データも書きかけの論文もないんだから、何もすることないんだけどね。はははは」
 茶之原は自棄になって笑い出しました。なんだか不気味でした。
「なんだ、また来たのか。暇な妖精だな」
 茶之原はこばとに対してそんなことを言います。
「きききい! 真剣に対策を考えているんですよー! 茶之原君も事態を打開するために少しは知恵を絞ってくださいなー!」
「だから素直に古文書を渡せばいいんだって」
「きききい! いちいち話が平行線になりますねー!」
「そんなに目くじら立てて、きいきいわめくなよ」
 茶之原は所在なさそうにスマホを取り出していじりだします。
 こんなのは放っておいて、話し合いを続けることにしました。
「その目面上君がウイルスを作ったとすると、目面上君は五十木と手を組んでサイバー攻撃を仕掛けてきたってことだよね。となると動機は大学への恨みってことかな?」
 小夜子さんは自身の推測を確認するように問います。
「よっぽどの恨みだよね。まずそのへんをきっちり調べないと。といっても、研究室のメンバー以外に何か取っ掛かりがないとね」
 薩田さんが途方にくれたように天井を見上げます。
「彼が悩んでいたとしたら、研究室以外の、誰か親しい友人に相談していたかもしれない」
 路子さんが提案します。
「そうね。在学中の目面上君の交友関係を調べてみようかな」
 薩田さんがそう言うと、
「そんな "探偵ごっこ" みたいなことしてないで、さっさと古文書渡そうぜ」
 茶之原はまたそんなことをぶつぶつこぼしていました。
 こいつだけは絶対に友達になれないと思いましたよ。

 ≫ 第6話「古文書を渡しましょう!」
 [ 2017/06/25 13:31 ]  こばとの大作戦! | TB(-) | コメント(0)